町の心療内科医が気づいた最近の若者の体調不良者続出の原因は急激な科学の発達による弊害だった。


林クリニック院長 医学博士 林慎吾


私は新宿の駅前で40年近く内科、心療内科クリニックを開業しています。

最近気になるのが10代から30代くらいの若者の虚弱化が目立つことです。朝起きると倦怠感や微熱、頭痛、腹痛などの体調不良が起こって登校できない生徒たち、また同じような不定愁訴で出勤できない新入~中堅社員が各方面で多発しています。何故このような現象が年々増加してきたのでしょうか?それぞれの専門といわれる識者たちも原因をつかめず漠然とストレスによるとしてその対策も明確ではありません。精神科や心療内科の医師たちは、うつ病、適応障害、未熟性格などと診断して抗うつ剤や抗不安薬、精神安定剤などを処方しますが、ほとんどの例で回復が見られません。今これらの若者に起こっている体の不調はそのような病気ではないのですから向精神薬を飲んでも治らないのは当然です。ではこのような状態を引き起こしている原因は一体何なのか、またその治療はどうすればよいのでしょうか。

 

現代の若者が虚弱になった原因は一体何か?

その原因は現代の過剰なまでの科学の発達にあるのです。

5月16日のNHKラジオ深夜便で名古屋大学名誉教授 池内了博士が「科学の光と影」について講話をしておられました。それは科学の発達には私たちの生活を豊かに快適にしてくれる光の面だけではなく、その反対に悪い影響が出る陰の面もあるのだというお話でした。科学の発達を現在のように野放し状態にしたままで良いのか否かについては相当昔から高名な科学者や哲学者が警鐘を鳴らしていたようです。池内博士は「最近の若者は一年中エアコンの中で生活しているから汗のかき方が下手になって、ちょっと暑くなっただけですぐ熱中症をおこす」といっておられました。

私は昭和18年生まれのいわゆる戦中派です。私の子供時代は暖房も冷房もありません。夏は暑いし冬は寒いのが当たり前です。冬の居間には火鉢に炭が起こっているだけです。手をかざせば温かいですが背中までは温まりません。綿入れの半纏を着ての生活でした。夜は冷たく重いふとんに潜り込んで縮こまり自分の体温でふとんが温まるのを待ちます。10分くらいするとようやくふとんの中が温まり、そこで手足をゆっくりと伸ばして眠りました。コタツやアンカがあれば良いですが何時でもどこでもというわけにはいきませんでした。朝起きると冷たい水で顔を洗います。洗面所にはヤカンに沸いたお湯が準備されているのですが、それは親父のひげそり用です。そのヤカンを横目に見ながら早く大人になりたいと思ったものです。夏は暑いです。氷で冷やす冷蔵庫はありましたがせいぜいビールが入っているくらいで子供用の食物や飲み物は何も入っていませんでした。アイスクリームも冷たいコーラも何もありません。水道水で冷やした麦茶がとてもおいしかったのを覚えています。私は北陸福井の市内で育ちましたが夏休みに母親の里の大野という田舎に行くと井戸水で冷やした大きなスイカが御馳走でした。単なる井戸水自体が冷たくておいしい飲み物でした。お風呂は薪で沸かして家族が全員順番で入ります。お祖父ちゃんから順に入るので母親と子供たちの番になった頃にはお湯の表面に家族中の垢が一杯浮いているので、手桶でそれを取り除いてから入ったものです。食事の支度も今思うと大変でした。電気釜が普及したのは中学校時代だったと思います。それまでは台所の隅の釜戸で薪を燃やしてお米を炊くのです。ご飯が炊きあがるのに1時間以上かかりました。夕飯のおかずを買いに行くのもなかなか大変です。魚は魚屋、野菜は八百屋、豆腐は豆腐屋に行って買います。子供用自転車はまだ一般的ではなく大人の自転車に乗れるようになったのは小学校高学年からで、それまでお使いは歩いて行ったものです。

これが私の子供の頃の生活です。たった60~70年前の日本の姿です。科学の発達のおかげでこの数十年の間に私たちの生活環境は素晴らしく快適なものに様変わりしました。これは科学がもたらした光の面です。では影の面は何でしょうか?それは、その影響で私たちは日常生活の中で起きるほんの些細な厄介な出来事に我慢ができなくなってしまったことです。

鹿児島大学医学部の丸山征郎教授の著書「背広を着た縄文人」*によりますと、私たち現代人の遺伝子DNAは縄文時代の人たちと殆んど同じなのだそうです。私たちは生まれてから一生懸命に勉強してiPS細胞の発見でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授のような優秀な頭脳を手にすることもできます。運動に励みアメリカ大リーグのイチローやエンゼルスの大谷選手のような素晴らしい運動能力を手に入れることも出来ます。私たちは、このように生まれてから後の努力で獲得した自分の能力を自分の遺伝子に反映して、それをどれくらい自分の子供に受け渡すことが出来るのでしょうか? 1~2割くらい? いやもっと多く5割くらいは自分の子供に受け渡すことが出来ると思う方もおられるでしょう。しかし実際にはこのような親の能力は子供には何一つ移行しないのです。私たちは父親の精子からと母親の卵子からの遺伝子が半分ずつ混ぜ合わさった新しい遺伝子を自分の遺伝子として授かることになります。すなわち自分の遺伝子は生まれた時に親から引き継いだそのままで決定してしまうのです。生まれた後に努力して獲得した色々な能力は自分の遺伝子には全く反映されません。自分が生まれた時に親から受け継いだ遺伝子をそのまま自分の子供に受け継いでいくのです。ということは自分の両親は祖父祖母からの遺伝子をそのまま受け継ぎ、祖父祖母はまたその親からそのまま受け継いでいるというわけです。結局どんどんさかのぼっていくと私たちは縄文人とほとんど同じ遺伝子を受け継いでいることになります。遺伝子が変化するのは突然変異という現象が起こった時しかありません。縄文時代の不潔で劣悪な環境の中を生き延びた人たちだけが子孫を残ことが出来ました。私たちはその縄文人の末裔であり当然彼らと殆んど同じ自律神経系を持っています。

 

私たちは自分の体は自分の思い通りに動かせると思っておられる方が多いと思います。たしかに、見たり、聞いたり、話したり、手足を動かすのは自分の思う通り随意にできます。しかし動悸がするから心臓をゆっくり動かそうと思っても出来ません。お腹がゴロゴロして下痢で痛むから腸の動きを抑えようと思っても出来ません。人前で顔が赤くなって恥ずかしいから顔の血管を縮めようとしても出来ません。このように私たちの内臓や血管の働きは自律神経(不随意神経)だけが支配してるので、自分の脳からの指示で随意に動かすことは出来ません。しかし肺はちょっと息を止めようとすれば1~2分止めることが出来ますが忘れていてもちゃんと呼吸してくれます。私たちの内臓の中で肺だけが自律神経と随意神経のダブル支配になっていますが、他の臓器は総て自律神経のみが支配しています。そして、私たち現代人の自律神経は縄文時代の環境に順応したままで現在の快適な環境に合うようには設定されていなのです。縄文時代までさかのぼらなくてもたった60~70年前までは私たちの体は、暑ければ自律神経が働いて毛穴を開き熱を体外に放散させ、寒ければ自律神経が働いて毛穴を閉じて熱を逃がさないようにしていました。何処へでも歩いて行き、腹が減っても料理が出来上がるまで1~2時間は我慢して待っていました。このような旧世界の環境の中で正常に作動するように設定されたままの自律神経は、現代社会のこの快適環境の中では誤作動を起こしてしまうことは容易に想像できるでしょう。

この自律神経の誤作動が池内博士の言う「科学の影」というわけです。科学の発達により私たちは一年中15℃~25℃くらいの快適な環境の中で暮らしていますが、その快適な環境が私たちの自律神経を大いに狂わせる原因になってしまったとは皮肉なことです。現代では腹が減ったらコンビニに飛び込めばオニギリや弁当を瞬時に手に入れることができます。このような快適な生活が私たちから我慢することを忘れさせてしまいました。そして、このひ弱な自律神経を持たされてしまった現代人は、ちょっとした環境の変化によるストレスや学校や会社での人間関係によるあつれきにさらされると、そのようなことに我慢することを訓練されていない自律神経が誤作動を起こして倦怠感や不眠、発熱、頭痛、下痢など体に多彩な症状を現わすのです。科学の発達により私たちは快適な生活を手に入れました。しかし気付いてみたら我慢することを忘れた未発達な自律神経を手にすることになってしまっていたのです。これが最近虚弱化した若者が増えた原因なのです。

 

栁田邦男**はエッセイ「困難な現代のジレンマ克服への道」で「現代のジレンマとは、文明が進むこと、とりわけ物質的に豊かになることが、必ずしも心の満足感や生きがい感に結びつかないどころか、むしろ満足感や生きがい感を得るのを困難にしていく傾向があるということだ」中略「現代文明の発達はオートメイションの普及、自然からの離反を促進することによって、人間が自然のなかで自然に生きるよろこび、自ら労して創造するよろこび、自己実現の可能性など、人間の生きがいの源泉であったものを奪い去る方向にむいている」中略「現代文明の進展、すなわち合理化、効率化、利便性、容易さ、画一的などの追及は、「努力すること」の否定になるばかりか、努力して得ることの「喜び」「満足感」さえも奪い去り、結果、「疎外感」「孤独」「実存的うつ病」を大量生産するかのように生み出している」と述べています。

栁田邦男は「科学の影」を「現代のジレンマ」と表現していますが、このように急激な科学の過剰な発達に追いついていけない未発達な自律神経を持つ羽目になってしまった若者たちを救うにはどうすれば良いのでしょうか?今さら科学の発達を後戻りさせることは出来ません。縄文時代の生活には戻れません。エアコンやコンビニやスマホの無い生活は無理です。ではどうすればこの現代の環境に順応していない未発達な自律神経をうまく使いこなすことが出来るでしょうか?

私たちの祖先は二足歩行することによって類人猿からヒトに進化しました。歩くことはただそれだけで脳を発達させて自律神経を鍛えてくれます。現代人は極力歩くことを嫌いますが、今更縄文時代の生活に戻ることが出来ない現代人にとっても歩くことなら何とかなる筈です。日頃、自分の自律神経が未発達だと感じている人は1日1時間のウオーキングを実行しましょう。1週間10~12時間のウオーキングを続けましょう。またビルの5階まではエレベーターやエスカレーターを使わず階段を上り下りしましょう。このヒトになるための最低限の運動であるウオーキングを習慣にすることにより、未発達な自律神経を現代社会に適応できる状態にリセットすることが期待できるはずです。   

  

*丸山征郎「背広を着た縄文人」

**神谷恵美子著「生きがいについて」     

2018年5月

お知らせ

2018年8月 】

~夏期休診のお知らせ~

8月10日(金)から16日(木)

休診させていただきます☀

契約健康保険組合、企業の健康診断を承っております。健診内容や金額見積もり等は電話でご相談ください。(巡回健診可)

※インターネット予約は、個人健診(所属なし)のみです。(電話予約も可)企業、健保組合のご予約は電話でお申込みください。

林クリニックは渋谷区区民検診の指定医療機関です。ご利用ください。(区境のため最寄駅は新宿駅です

禁煙外来は夕方のお仕事帰りでも診察可。ご相談ください。(院長の診察日のみ)

ピロリ菌検査・除去は院長の診察日にお越しください。お問い合わせはお電話で。

CT検査のご相談、ご予約承ります。まずは、お電話ください。

内臓脂肪検査は当日結果をお渡しできます。(院長の診察日のみ)お問い合わせください。

東振協の二次精密検査は完全予約制です。必ずお電話でご予約ください。(検査は夜間不可)    

超高濃度ビタミンC点滴治療療法は休診しています。

医院概略

医院名林クリニック
所在地〒151-0053
東京都渋谷区
代々木2-10-8
ケイアイ新宿ビル8F
TEL03-3370-5100
FAX03-3370-0140